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「この世界の片隅に」のすずちゃんと戦争を考える

 「この世界の片隅に」を観てきました。たまたまラジオを聞いていて、流れてきた主題歌がとっても素敵だったので劇場に足を運びました。主題歌で映画を決めるというのは初めてかもしれないですね。
 昭和20年、広島・呉を舞台にした作品ですが、無味乾燥に描かれた戦争テーマの作品ではありません。すずちゃんという主人公の視点で、原爆が落とされるもっと前からストーリーは始まります。能年玲奈さん改め、のんさんが(この改名も一悶着あるようですね…)すずちゃんの声優を演じています。主人公は方言を話すのですが、これが素晴らしい。なまりや、昔の言葉を演者が話すと嘘くささが出てストーリーに入り込めないことがよくありますが、のんさんは主人公のイメージにピッタリとあっていました。
 僕は、この映画の素晴らしさは、一人のすずちゃんの視点から戦争を描いたというところにあると思います。ついつい、私は、「広島、長崎に原爆が落とされて、玉音放送があって…」と人生ゲームのコマを進めるように事実だけを淡々と追ってしまいます。しかし、そこには私たちと同じように、何千何万という人々の人生があるわけです。2つとして同じ道を歩む人はいませんが、そのことは忘れがちです。主人公すずと一緒に私たち観客は成長していく中で、たくさんのことを経験していきます。だから、私たち観客には劇中の中に居る人々の気持ちが痛烈に伝わるのです。言葉にならない彼女の思いも、彼女と一緒に成長した私たちは手に取るようにわかります。それから、日常の延長線上に戦争を描くことで、空襲の場面が一段と恐ろしく感じました。映画館の良い音響でぜひ体験してみてもらいたいです。身体がジーンと熱くなってきます。4Dではないのですが、地震が起きたときのように大きく揺れます。戦争が激化していく中で、空襲警報の回数も増えます。中には、サイレンが鳴っても実際には攻撃がなかったという場面もありました。劇中の人々は、「また空振りじゃないか」と言って徐々に警報に慣れていってしまっていました。なんだか、現代の緊急地震速報に重なるところがあるなと思いました。
 この映画はクラウドファンディングによって作られたそうです。エンドロールの最後に、出資した人の名前がずらーっと流れ、そこでまた感動してしまいました。こういった映画の作られ方は新しいですね。少なくとも私は初めて観ました。数十の劇場でしか上映されていなかった本作品ですが、SNSでの口コミで全国各地の劇場で上映されるようになったとか。今、このタイミングで、多くの人がこの映画を観て、少し立ち止まってあれこれ考えてみるというのはとてもいいことじゃないでしょうか。

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